Japanische Klassiker mit Furigana
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すいごういぶん
水郷異聞
田中 貢太郎
Lesen Sie 水郷異聞 (すいごういぶん) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.516 Zeichen · 36 Bildschirme
※(ローマ数字5、1-13-25)
黒い雲の一片はふわりふわりと室の中へ入って来た。
「おふざけでないよ」
女の右の手は頭にかかって黒いピンが抜かれた。女はそのピンを室の中へ入って来た雲の一片めがけて突き刺した。と、怪しい鳴き声はばったり止んで雲はピンを刺したまま崩れるように室の外へ出て往った。
省三は夢現の境に女の声を聞いてふと眼を開けた。それと同時に女が後から着せた羽織がふわりと落ちて来た。
省三は女に送られてボートで帰っていた。それは曇った日の夕方のことで、鼠色に暮れかけた湖の上は蝸牛の這った跡のようにところどころ鬼魅悪く光っていた。
省三は女の家に二三日いて帰るところであった。彼は艫に腰を懸けて女と無言の微笑を交わしていたが、ふと眼を舟の左側の水の上にやると一尾の大きな鯰が白い腹をかえして死んでいた。
「大きな鯰が死んでますね」
省三はその鯰をくわしく見るつもりでまた眼をやった。黒いピンのようなものが咽喉に松葉刺しにたっていた。
「咽喉をなにかで突かれているのですね」
「いたずらをして突かれたものでしょう、それよりか、次の金曜日にはきっとですよ」
「好いです」
※(ローマ数字5、1-13-25)