Japanische Klassiker mit Furigana
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こはん
湖畔
久生 十蘭
Lesen Sie 湖畔 (こはん) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.180 Zeichen · 47 Bildschirme
俺は急に立って控へ行き、人目もかまわず白布を捲って見た。死体の肉身はいちじるしく腐爛し、魚族に喰いとられ、岩に擦れ、二た目と見られぬような惨状を呈しているが、元来、貧栄養湖の寒冷な水の中にあッたものだから、ところどころに完全な形が残っている。首から肩へかけたあたりの肉付は、生前華車な美しい身体だったことを示している。胸とてもその通りで、さぞムッチリした、豊かな胸だッたのであろう。その俤も充分に残っている。見れば見るほど陶の身体に似ているようで、そのうちに気もそぞろになッてきた。陶の下顎の門歯と犬歯の間に小さな虫喰孔があッたのを思いだし、恐る恐る顔をさしかけてのぞきこんで見ると、そこに見馴れた孔があった。俺は思わず尻餅を突いた。
これがあれほどまで美しかッた陶の身体なのか。黒曜石のような聡しい眼のあった個所には、眼窩が暗い孔を開け、桜貝のような愛らしい耳が着いていたところから藻草が青い芽をだしている。俺を抱き、俺に枕を貸したあの嫋婉やかな腕は、いまはことごとく肉崩れ落ち、水に晒された一本の白い腕骨にすぎぬ。
この世で出逢おうとも思わなかった無残無情を眼のあたりに見て、俺はさながら胸を引裂かれる思いだッた。