Japanische Klassiker mit Furigana
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おぼるるもの
溺るるもの
豊島 与志雄
Lesen Sie 溺るるもの (おぼるるもの) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.690 Zeichen · 36 Bildschirme
一 或る図書館員の話
掘割の橋のたもとで、いつも自動車を乗り捨てた。
眼の届く限り真直な疏水堀で、両岸に道が通じ、所々に橋があって、黒ずんだ木の欄干が水の上に重り合って見える。右側は大きな陰欝な工場、左側は小さな粗末な軒並……。その軒並の彼方、ぼうっとして明るみの底、入り組んだ小路の奥に、燐光を放ってる一点があった――彼女がいた。
燐光……そんな風に私は彼女を感じた。
彼女は眼が悪かった。軽い斜視で、その上視力が鈍っていた。十六七の時に急に悪くなったのだという。兄は盲目だそうだ。遺伝性黴毒からきた黒内障ではないかと私は思った。が彼女は角膜炎だと云った。そして近眼で乱視だと……。近視十五度の私の眼鏡をかけて、よく見えるとて喜んだ。
「眼鏡を一つ持ってたけれど、転んで壊しちゃって……それきりよ。眼医者に行くと、長く通わなけりゃならないから……。」
その眼が、黒目も白眼も美しかった。眉墨で刷いた細い長い眉の下、くっきりとした二重眼瞼の方へ黒目を寄せて上目がちに、鏡の中を覗きこみながら、寝乱れた鬢の毛をかき上げてる、軽い斜視の乏しい視力の眼付と真白な細面の顔とを、傍から鏡の中に眺めるのを私は好んだ。