Japanische Klassiker mit Furigana
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しおかぜ
潮風
豊島 与志雄
Lesen Sie 潮風 (しおかぜ) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.018 Zeichen · 25 Bildschirme
片野さんは彼女を抱いたまま、座敷に戻ってきた。そこにつっ伏した彼女を引きよせて、膝に抱きあげた。きょとんとした顔付だった。それから急に、両の腕に力をこめた。
まるで意外なことなので、俺は呆気にとられた。あんなに嫌っていた佐代子、足の短い、頸筋の頑丈な、反歯な彼女を、片野さんはしっかと抱きしめてるのである。佐代子はもう泣きやんで、父親にでも抱かれるような調子で、片野さんに全身を托しているのである。眼をつぶって身も心も投げ出してるような様子だ。片野さんの歯が彼女の反歯にふれあって、かちかち鳴る音がした。
俺は初めの驚きから我に返って、ちょっと面白くなって、片野さんの耳に囁いてやった。
――それが、人情っていうものですか。
何の反応もない。
――それが、いかものの味というやつですか。
何の反応もない。
――よし、どうにでもしてしまいなさい。殴りつけるなり、蹴とばすなり、玩具にするなり、あなたの意のままだ。この機会をのがしちゃあ、だめですよ。人間一人を勝手に取扱うのは、何より面白いことですよ。
何の反応もない。
ただ、盲目的に、二人の身体はひしとくっつきあっていくだけだった。