Japanische Klassiker mit Furigana
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みおつくし
澪標・落日の光景
外村 繁
Lesen Sie 澪標・落日の光景 (みおつくし) von 外村 繁 (とのむらしげる) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.889 Zeichen · 268 Bildschirme
妻は笑っている。時時、口を動かしている。その妻の姿には、絶えずあの私の感情が山霧のように纏わりながら流れて行く。突然、水を浴びせられたように、私は恐怖を感じる。その恐怖は、丁度、高所恐怖症の者が断崖に立たされた時のような恐怖に類している。全身は戦慄し、冷汗が噴き出る。
いつかはなくなるはずのものが、ないのである。その寂寥感は酷しいが、恐怖はない。が、なくなるはずのものが、あるのである。私の恐怖はこの存在することの不安から発しているようである。
素子は二ヵ月の闘病生活にもかかわらず、その肉体は少しも衰えを見せていない。その体格は大きく、むしろ肥満している。が、外見は健康そうな妻の肉体が、内部から崩壊して行く過程を想像する時、私は絶望的な恐怖を覚える。
しかし酔いは私の思考力を薄弱にする。更に感情の感度も鈍くする。私は側近く妻を坐らせて、盃を傾け続けている。少くとも昨夜までの様子とは大分異っている。私は快い酔いに助けられて、他愛なく、次第に一応は幸福なように思われて来る。また、そんなことを考えてみても、どうなるものでもない、と思われて来る。
暖い晩である。