Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ちちのしゅっきょう

父の出郷

葛西 善蔵

Lesen Sie 父の出郷 (ちちのしゅっきょう) von 葛西 善蔵 (かさいぜんぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.047 Zeichen · 18 Bildschirme

Aozora Bunko

と、娘に言った。

「もう九時でしょう」

「何時だってかまわない……」

私はこう言って羽織と足袋を脱ぎ、袴をつけて、杉の樹間の暗い高い石段を下り、そこから隣り合っている老師のお寺の石段を、慄える膝頭を踏ん張り、合掌の姿勢で登って行ったのであった。春以来二三度独参したことがあるがいつも頭からひやかされるので、すっかり悄げていっこうに怠けているのだが、しかしこうした場合のことだから、よもや老師はお見捨てはなさるまい、自分は老師の前に泣きひれ伏しても、何らか奇蹟的な力を与えられたいと、思ったのだ。蔦が厚く扉をつつんだ開かずの門のくぐりから、寂寞とした境内にはいって玄関の前に目をつぶって突立った。物音一つ聴えなかった。暗い敷台の上には老師の帰りを待っているかのように革のスリッパが内へ向けて揃えられてあり、下駄箱の上には下駄が載って、白い籐のステッキなども見えたが、私の二度三度の強い咳払いにも、さらに内からは反響がなかった。お留守なのかしら?……そうも思ったが、私は何となく不安になってきた。「老師さん!……」と私は渾身の力を下っ腹に入れて、叫んだ。……老師さん!……老師さん!……老師さん!……さらに反響がなかった。