Japanische Klassiker mit Furigana
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しらねのふもと
白峰の麓
大下 藤次郎
Lesen Sie 白峰の麓 (しらねのふもと) von 大下 藤次郎 (おおしたとうじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.238 Zeichen · 45 Bildschirme
「もう一里ほどです」と人夫はいう。道は細く、山から辷り落ちた角のある石の片けが、土を見せない。急な下り道では、足は石車に乗って、心ならずも数間を走らねばならぬ。人夫の背負うていた私の写生箱は、いつか細引の縛めを逃れて、カラカラと左の渓へ落ちた。ハッと思って下を覗くと、幸いに十数間の下で樹の根に遮れて止まっている。崖は傾斜が急で下りられない。大迂回をして漸く拾い上げたが、一時は吾事終れりと悲観したのであった。
川に近く下って、右に曲ると、上り坂だ。湯川の水の音は耳を聾するようである。見上げると三階建の大きな家がある、右の崖の上にも新しい家が見える。前なるは古湯で後なるは新湯、私は新湯の玄関に荷物を下させた。
五
紺の裾短かな着物を着た若い女中が出て来た。黒光りの長い縁側を通って、初めに見た新しい二階の一室に入る、天井の低い、壁のない、畳の凸凹な、極めて粗末な部屋だが、新しいので我慢も出来よう。主人はやって来て「小島サンもこの室に御泊でした、この夏山岳会の大勢の御方の時は、ここと隣りの部屋とにおられました」と語る。親しい友の、幾夜さかを過した座敷かと思うと何となく懐かしい。