Japanische Klassiker mit Furigana
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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
Lesen Sie 真珠夫人 (しんじゅふじん) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 289.296 Zeichen · 578 Bildschirme
彼は、電車の中でも、何処か外で、ゆっくり時間を潰して、夕方になってから、帰ろうかとさえ思った。が、彼の本当の心持は、一刻も早く家に帰りたかった。妻の静子の優しい温順な面影に、一刻も早く接したかった。危険な冒険を経た者が、平和な休息を、只管欲するように、他人との軋轢や争いに胸を傷つけられ、瑠璃子夫人に対する幻滅で心を痛めた信一郎は、家庭の持っている平和や、妻の持っている温味の裡に、一刻も早く、浴したかったのである。縦令、もう一度妻を欺く口実を考えても、一刻も早く家に帰りたかったのである。
が、彼が一歩々々、家に近づくに従って、自分の家の前に停っている自動車が、気になり出した。勿論、此の近所に自動車が、停っていることは、珍らしいことではなかった。彼の家から、つい五六軒向うに、ある実業家の愛妾が、住っているために、三日にあげず、自動車がその家の前に、永く長く停まっていた。今日の自動車も、やっぱり何時もの自動車ではないかと、信一郎は最初思っていた。が、近づくに従って、何時もとは、可なり停車の位置が違っているのに気が付いた。何うしても、彼の家を訪ねて来た訪客が、乗り捨てたものとしか見えなかった。