Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
これではどんな忍びの者も外部から御座へ近づくことはできまい。
「ふむ、火桶」
後醍醐は、侍者の狂喜していう伝奏に、ふと暗中の御気配をゆるがして、
「それはうれしい。……また夜のともし灯も、今夜からは点くのか。それもまた、ありがたいの」
と、素心にほほ笑まれた。
一条行房と、少将忠顕は、
「これで助かりました。およろこび斜めならずと、給仕人へも、申しつかわしましょう」
と、すぐ退がった。
彼らの挙止の礼は、九重の清涼と何ら変らないが、二人の衣冠は、ぼろぼろだった。鼠の巣を鼠の影がちょろちょろ出入りしているようであった。
後醍醐はといえば。さすが、大内の御座も今の孤座も、そのお容には変りがない。
けれど、こうした囚われのご不自由もすでに七十余日になる。入浴は三日おき、肌着のお着がえも忘れるほどだし、剃刀はゆるされないので、おもいがけない美髯が黒々といつかお顔の半分に蓄えられていた。
「――わしにも人間の臭いがして来た。笠置いぜんまでは、わしは人間の垢を知らなかったのだな」
帝の剛毅は、ここでも一こう萎縮していない。或る折にはお腕の垢を縒りながら、こういって呵々と大笑されたことなどある。