Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
粋人の彼である。その方のことならば人一倍わかりはいい。
獄中の拝謁をえてから後十日あまりを、道誉は懸命な“蔭の働き”につくしていた。帝のおたのみ事の実現をみるまでは、自分の私恋私慕も打ち捨てている姿だった。私生活では婆娑羅な見得者の彼でいながら、ときによっては目に見えないこんな舞台裏の骨折りも、彼はなんともおもっていない。
はや街は歳暮景色である。
「ぜひ、正月までには」
と、獄裡のおこころも察して独りあせっていた。
思うに、後醍醐が恋いこがれていらっしゃるのは、ご寵愛第一の三位ノお局(阿野廉子)にあろう。――後宮の佳嬪は十幾人もお持ちだったが、かの玄宗皇帝における楊貴妃のように、一身の寵の誇りは廉子にある。あの艶姿と賢さと、わけてその情熱とは、獄裡の夢にも夜々恋々と消し難いものがおありなのにちがいない……と、道誉にはよくわかる。
だが、困ったことに。
およそ新帝の一派からも、また幕府方からも、廉子はひどくにくまれている。後醍醐の愛妃十幾人のうち、敵視されていることも彼女が第一なのだった。――道誉の蔭の運動は、その至難をも排しつつほぼ八、九分の成功はみていたが、ただそれひとつのため、まだ鎌倉の最後の承認がえられていない実情だった。