Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
といっても、帝が御車を降りるふうではない。
車の内のままなのだ。いま、都門を遠く離れるにあたって、どんな御祈願をこめ給うのかと、しばし人霞の上の埃りも沈むかのように見えた。
――すると、そのうつつない群集の中で、とつぜん、絹を裂くような女の声がした。しいんとしていた時だけにただ一ト声だったが何ともそれは異様に耳を搏った。もちろん附近の無数の顔は、一瞬前後へキョトキョト不審を迷わせてはいた。けれど眼には何も触れなかったらしい。――群集は、また御車の方へ、伸び上がっていた。
ところが、すぐまたおなじ附近で、眉目の美い八、九歳の少年が「……お母さま……」と、大声を発し、あたりの者へ「母者がいない……母者を捜して」と、手放しでオイオイ泣き出していたのだった。
「や、人買いか」
「かどわかしらしい」
「かわいそうに、この迷い子、どこの曹司やら?」
だが、この小事件と言い合せたように、ちょうど、朱雀方面からこれへ疾走してきた一団の騎馬があり、馬を跳び降りるやいな、その十数人の武者が、いきなり群集を割ッて、どなり散らしつつ進んでいたので、迷い子の声も、人々の同情も、たちまち人波のうちに没してしまった。