Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
弓の弦音だけがビンビンと澄んだ大気に鳴り出していた。
「待てっ。射るな」
あとから近づいて来た義貞の声だった。
義貞は、もしやと思っていたものを、見つけたのである。川向うの丘に立っている一人の男が、竹竿のさきに、童子の水干らしい紫いろの羅衣をくくしつけて、しきりに振りぬいている様子なのだ。――武蔵野の紫草にちなんで、それを目じるしに――とはかねて義貞と義助だけが胸の奥においていた密契の一ツであった。その紫と知ったので、
「義助、行って止めろ。そしてすぐこれへ迎えて来い」
と、そばの脇屋義助を川べりへ駈けさせた。川幅といっても狭い支流である。しぶきを見せて、はや騎兵の一部は、向うの岸へ駈け上がりかけている。
「やあいっ、逸まるなッ。見かけたのは敵ではないぞ。足利殿のおん曹司だわ。ひかえろ、ひかえろ」
義助のこの大声には、たれもが耳を疑った。しかし、彼らがやっとその弓をおさめたと知ると、こんどは先の男が、丘の上なる雑木林の蔭へむかって、その手にしていた竹竿の紫の水干を振っていた。
するとはじめて、そこらの木の間から、百人ほどな兵や雑人たちが、ぞろぞろ姿をあらわした。