Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
そうしたら大いに利用されてやろう。彼らと足利とは、不倶戴天、あくまで戦わねばならぬ宿敵だ。その間にいて、未来の活路をはかればよい。
「……だが?」
もしまた、彼らが往年の怨みをすてず、つらく報いてきたらどうするか。ぜひもない。それまでのことである。
宮は経机にお目をおとした。仁王経の一端がひらかれていて、
無死無生
の四字が眸にとびこむ。――一切衆生ハ無生ノ中ニ於テ、妄リニ生滅ヲ見テ惑ス――語の余韻がお胸の底に重たく沈む。
余韻といえば。――鎌倉じゅうの鐘も今夜は一度だに鳴っていない。――しかるに、ふとどこかでミリッという物音がした。しばらくやむ。また、妙な気配がする。宮は燭を切って面を澄ました。
ハタと、おもての虫の音もやんでいる。
「……?」
宮はすわり直された。
それまではまッすぐに立っていた燭が微かな墨をふいて横になびいている。――眠っていた蚊うなりまでが急に騒ぐ。――廊の外のどこかが開いて、忍び入る暗い風がぬりごめの壁をめぐり出していたものにほかならない。それなのに目に見える物は何もないのであった。
「たれだっ?」
「…………」
「南か」
宮は、侍女の南の方でもあろうかと、なかばなお、妄想を制しておられるふうだった。