Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
夕方。堂守の妙達は、また、なぐさめ顔に、観音堂へ見えた。
「もう、六波羅風は去んでしもうたし、誰へ気がねもいらぬことじゃ。お内儀がよくなるまでは、ゆっくり、ここで養生して立つがよい」
そして、晩には、また、
「これも何かの縁。わしも今夜は、小さい仏のお通夜を一しょにさせていただこうよ」
と、かたちばかりの供え物なども、彼が飾った。
「……倖せな子」
半夜の静かな念仏は、雨露次夫婦に、やがてそんな想いも抱かせた。
むしろ、苦患を生きてゆかねばならぬ親こそ、業の深い者なのだろう。……と思って、須弥壇を仰ぐと、金色の聖観音の御手に、亡きわが子は、抱きとられているかとも見えてくる。
夫婦は、おもわず「……お願いします。来世はどうか、こんな宿業の深い親の仲で生れて来ずに、倖せな子に生れますように」と、心でさけぶ。すると、観世音の微笑は、「……それはよけいな取り越し苦労ぞ。この子は元々、私の子なのだ。いや世の衆生はみな私の子であるものを。……いま、おまえ方の子も、私の手によび返したまでのこと」――そう答えているように仰がれた。
と。そのとき、堂の外で、
「もしや、そこの灯影のうちに、申楽師の雨露次は居るまいか。