Japanische Klassiker mit Furigana
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むらさきだいなごん
紫大納言
Lesen Sie 紫大納言 (むらさきだいなごん) von Sakaguchi Ango (坂口 安吾) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.899 Zeichen · 26 Bildschirme
怖ろしい何者もない思いがした。月に小笛を見られることも、怖れなかった。昨日、小笛を拾った場所へ近づいた。
と、谷あいのしじまを破る気配がした。木蔭から月光の下へ躍りでて、行くてをふさいだものがある。四人、五人、また一人。現れたものは太刀をぬいて、すでに彼をとりまいていた。
大納言はその場へくずれて坐ったことも気付かなかった。思わず小笛をとり落した。むなしく月の使者達を眺めた。そうして、声がでなかった。と、然し、彼等が袴垂れの徒党であると分ったときには、安堵のために、思わず深い放心を覚えた。
やにわに、彼は、落した小笛をとりあげて、まず、まっさきに、盗人の前へ差しだした。
「これをやろう!」
こみあげてくる言葉に追われて、はずむ声で、彼は叫んだ。
「命にかえられぬ秘蔵の品だが、とりかこまれては是非もない。これを奪って、今宵第一の獲物にせよ」
盗人は大納言の手中から無造作に小笛をひったくり、返す手で、大納言のたるんだ頬を小笛でピシリとひっぱたいた。大納言はようやく、気付いて、うろたえた。
「太刀もやろう。欲しいものは、みんな、やろう」
「衣も、おくせ」
大納言は汗衫ひとつで、月光の下の小径を走っていた。