Japanische Klassiker mit Furigana
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みみこうすい
耳香水
大倉 燁子
Lesen Sie 耳香水 (みみこうすい) von 大倉 燁子 (おおくらてるこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.465 Zeichen · 29 Bildschirme
まだ宵の口だというのに、住宅地附近はひっそりとして淋しゅうございました。大きな屋敷ばかり並んでいて、外燈が処々にぽつりぽつりとあるだけで、薄暗いんです。横町を曲ろうとしました時、反対の方向から、不意に一人の女が出て来て、危く私に突き当るところでした。
すれ違いました時、『オオ、佳い匂だ!』と思わず心で叫んで、私は深い息を吸いました。ウビガンのケルクフルール! こんな香水を使っているのはよほどのお洒落か、社交界の貴婦人かだろうと思いましたので、どんな人か知らと振り向いて見て、すっかり興を覚ましてしまいました。エプロンをかけた女給風の女じゃありませんか。貧弱な、小さな体に、飾りつけのない安っぽい洋服を着ています。特別大きな帽子を被っているので、容貌は分らないが、慥かに美人ではなさそうでした。どこか体の工合でも悪いのか、屋敷の長い土塀に掴まりながら、ひょろりひょろりと前屈みに歩いて行くんです。今にものめりそうで危なッかしい、病人かも知れない、そう云えばすれ違った時、彼女の息づかいはまるで肺病患者のように苦しそうでした。しかしそれにしても――。あんな女給が、ウビガンの香水を使用しているなんて――。