Japanische Klassiker mit Furigana
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おちむしゃにっき
落武者日記
山本 周五郎
Lesen Sie 落武者日記 (おちむしゃにっき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.460 Zeichen · 23 Bildschirme
「試していただきましょう」
祐八郎は正面あげて家康を睨めつけながら云った。
「いまより四日まえ、関ヶ原の合戦に、わたくしは金吾中納言どのの裏切りを見ました、秀秋どのの裏切りの軍勢が、味方の側面へなだれ込むのを、……この眼ではっきりと見ました」
「…………」
「弓矢とる身にとって、見るべからざるものを見たのです。わたくしの五体は、そのとき八千にひき裂けました」
祐八郎の全身が痙攣るように震えた。彼は咽も割れるかと思える声で叫んだ。
「そのときわたくしの五体は、呪いと忿怒のために八千にひき裂けたのです、この体のどこにも、もう痛むところは残っておりません。お責めなさるがよい、徳川どの、わたくしは治部の殿の御在所を知っておりまするぞ」
彼の叫びは高く、幕張の内に昂然と響きわたった。
家康の表情は少しも動かなかった。いやむしろ、そのたるんだ瞼の下にある細い眼が、いつか力を無くして閉じられさえした。
――金吾中納言の裏切り。
その一言が、家康の太い胆玉に、わずかながら鋭い痛みを感じさせたのである。……老人は間もなく眼をあげた。
「あっぱれ申しおるのう」
家康は低く呟くように云った。