Japanische Klassiker mit Furigana
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ぐびじんそう
虞美人草
Lesen Sie 虞美人草 (ぐびじんそう) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 198.559 Zeichen · 401 Bildschirme
と背広の胸を合せる。
「もう帰る時分ですから」と小さな声で引き留めようとする。
「また来ます。御帰りになったら、どうぞ宜しく」
「あの……」と口籠っている。
相手は腰を浮かしながら、あののあとを待ち兼ねる。早くと急き立てられる気がする。近寄れぬものはますます離れて行く。情ない。
「あの……父が……」
小野さんは、何とも知れず重い気分になる。女はますます切り出し悪くなる。
「また上がります」と立ち上がる。云おうと思う事を聞いてもくれない。離れるものは没義道に離れて行く。未練も会釈もなく離れて行く。玄関から座敷に引き返した小夜子は惘然として、椽に近く坐った。
降らんとして降り損ねた空の奥から幽かな春の光りが、淡き雲に遮ぎられながら一面に照り渡る。長閑かさを抑えつけたる頭の上は、晴るるようで何となく欝陶しい。どこやらで琴の音がする。わが弾くべきは塵も払わず、更紗の小包を二つ並べた間に、袋のままで淋しく壁に持たれている。いつ欝金の掩を除ける事やら。あの曲はだいぶ熟れた手に違ない。片々に抑えて片々に弾く爪の、安らかに幾関の柱を往きつ戻りつして、春を限りと乱るる色は甲斐甲斐しくも豊かである。