Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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むし

虫

江戸川 乱歩

Lesen Sie 虫 (むし) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 44.053 Zeichen · 86 Bildschirme

Aozora Bunko

かくして、身体を七十日間曹達水に浸したる後、之を取出し、護謨にて接合せる麻布を以て綿密に包巻するなり」

彼は幾度も同じ部分を読返していたが、やがて、ポイとその本を放り出したかと思うと、頭のうしろをコツコツと叩きながら、空目をして、何事か胴忘れした人の様に、「なんだっけなあ、なんだっけなあ、なんだっけなあ」と呟いた。そして、何を思ったのか、突然階段をかけ降り、非常な急用でも出来た体で、そそくさと玄関を降りるのであった。

門を出ると、彼は隅田堤を、何ということもなく、急ぎ足で歩いて行った。大川の濁水が、ウジャウジャと重なり合った無数の虫の流れに見えた。行手の大地が、匍匐する微生物で、覆い隠され、足の踏みどもない様に感じられた。

「どうしよう、どうしようなあ」

彼は歩きながら、幾度も幾度も、心の苦悶を声に出した。或る時は、「助けてくれエ」と大声に叫び相になるのを、やっと喉の所で喰い止めねばならなかった。

どこをどれ程歩いたのか、彼には少しも分らなんだけれど、三十分も歩き続けた頃、余りに心の内側ばかりを見つめていたので、つい爪先がお留守になり、小さな石につまずいて、彼はバッタリ倒れてしまった。