Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ゆくえふめいのしょじょさく

行方不明の処女作

宮本 百合子

Lesen Sie 行方不明の処女作 (ゆくえふめいのしょじょさく) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N3. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N3 · Mittel · moderne Kanji und Kana · 2.916 Zeichen · 6 Bildschirme

Aozora Bunko

題はついていたのか、いなかったのか、なかみを書く紙は大人の知らない間にどこからか見つけ出して来て白い妙にツルツルした西洋紙を四六判截ぐらいに切ったものを厚く桃色リボンで綴じ、表紙の木炭紙にはケシの花か何かを自分で描いた。ペンにインクをつけて書くことは私の時代の小学生は知らなかった。女学校に入ってからそれは覚えたので、私はその時大いに意気込んだ心持を毛筆に托して、下書もせず、下書をするなどということさえ知らず、その小説を書き出したのであった。

或る午後、私が蝉の声をききながら、子供らしくボーとなったり、俄にませた感情につき動かされたりしながらその小説を書いているところへ、何かの都合で母が来た。そして、書いているものを見つけ、

「それ、百合ちゃん、お前が書いたの?」

というからそうだと答えたら、母は、

「まあ、何だろ!」

と、一種の表情で云い、その場でとりあげたのであったかどうか、ともかくそれっきり、その桃色リボンで綴じた小説は私の前から消えてしまった。夏の海辺の夜の中を若い男と女とが散歩をしている。女は白い浴衣で団扇をもち、漁火が遠く彼方にチラチラ燦いているという極めて風情のあるところで、肝心の帳面ぐるみ、小学生作家の空想は明治時代らしいモラリストである母によって中断されてしまったのである。