Japanische Klassiker mit Furigana
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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
Lesen Sie 過渡人 (かとにん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.206 Zeichen · 41 Bildschirme
その日矢島さんは窓の所へ立って外を見ていた。人家を越して向うに瓦斯会社の建物が見られた。彼の眼はその大きい瓦斯溜に止った。午後の光線を受けてそれは黝んだ茜色に光っていた。
矢島さんは、タンクが毎日時を定めて脹れたり縮んだりすることを知っていた。またその巨大な鉄タンクの静かな運動の力をも知っていた。それをじっと見つめている時彼の胸には、云い知れぬ興奮と哀愁とが湧いてきた。黝んだ茜色の鉄の光りと、その上の煙筒から吐き出さるる渦巻く煙とが、彼の眼を囚えた。そして彼は脹れ上ってゆくタンクの静かな運動を、大地の呼吸のように感じた。すぐ下の発動機の響きも耳には入らなかった。
矢島さんがそうしてじっと立っている時だった。彼はふと直覚的に笹尾が来たことを感じた。階下で話声がした。耳を澄すと果して笹尾の声であった。
矢島さんは急に窓から離れた。それから室の中を二度ぐるりと歩き廻った。そして此度は机の前の椅子に腰掛けて髭を撚った。それから煙草に火をつけた。
笹尾は扉を叩いて、それから一寸入口で立ち止った。
「さあお入り。」と矢島さんは声を掛けた。
ずっと入って来て臆病そうに椅子に掛けた笹尾の姿を、矢島さんはじっと眺めた。