Japanische Klassiker mit Furigana
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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
Lesen Sie 雲の小径 (くものこみち) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.634 Zeichen · 33 Bildschirme
「いらっしゃい。お待ちしていたのよ」
白川は、じっとりと脂湿りのする生温い香世子の霊の手を握りながら、
「このあいだは、出てきてくれて、ありがとう」
と礼をいうと、香世子の霊は怨みがましい顔つきになって、
「あたしたちには、行動の規律といったようなものがあって、呼びだした肉体に、入って行かなくてはならないことになっているんですけど、柚子の物質を借りることは、もう、やめていただきたいの。あたしと柚子のつづきあいを、よく知っていらっしゃるはずなのに。お怨みしたわ」
白川は霊の膝のほうへ擦りよって行って、
「柚子が霊媒になっていようなんて、夢にも知らないことだったんだ。たぶん、腹をたてているのだろうと思って、今日はあやまるつもりできた」
「それで柚子は? まさか、あなたのところに置いてあるんじゃ、ないでしょうね」
「柚子とはターミナルで別れたきり、いちども逢っていない」
香世子の霊は眉をひそめて、
「あやしいもんだわ」
というと、案外な力で白川の胸を突いた。
「そう疑い深くてもこまるな。雪隠に隠れて饅頭を食うような、卑しい真似はしない。柚子なんて娘は、おれの趣味じゃないよ」