Japanische Klassiker mit Furigana
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かばんらしくないかばん
鞄らしくない鞄
海野 十三
Lesen Sie 鞄らしくない鞄 (かばんらしくないかばん) von 海野 十三 (うんのじゅうざ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.653 Zeichen · 73 Bildschirme
結局、運転手はその鞄を百円札五枚で支配人に譲り渡した。売った方も買った方もにこにこしていた。
酒田はその鞄を手にぶら下げて、そこから程遠からぬところにある彼の邸へ歩いて帰った。彼は目下やもめ暮しであった。家族たちはまだ疎開先に釘づけのままだった。東京のこの家には、家政婦の老婆が一人仕えているだけだった。
酒田はその鞄を持って帰ると、押入を開いて、下の段の奥へ押込んだ。そしてすぐ襖を閉めた。どういうわけでそうしたのか明瞭でないが、多分あまり安く値切って買ったのが気になっていたのかもしれない。
夕食後、彼は居間に引籠った。例の鞄を押入から出して、絨氈の上に置いて開いた。それから彼は箪笥の引出をあけて中からなまめかしい婦人の衣類を取出し、それを一々電灯の灯の近くへ持っていって眺め、指先で布地を摘み且つ匂いを嗅いだ。そして二種類に別けて積んでいったが、その一方を例の鞄の中へていねいに入れ始めた。長襦袢もあるし、錦紗もあるし、お召もあり、丸帯もあり、まるで花嫁御寮の旅行鞄みたいであった。その上にも彼は、隅の金庫を開いて中から取出した貴金属細工のついた帯留や指環の箱、宝石入りのブローチの箱、腕環の箱などをその鞄の中、ほどよきところへ押込んだ。