Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.832 Zeichen · 24 Bildschirme

Aozora Bunko

もう、万年青どころの騒ぎではない。

毎朝、殊更らしい顰めっ面をして万年青の前に跼んでいるのは、実のところ、隠しても隠し切れぬ愁傷顔を娘や阿古十郎に見られ、弱り切った本心を覚られまいとする我慢の手管なのである。

それにしても、つい溜息が出る。

もし、出なかったらどうしようと思うとチリ毛が寒くなる。江戸中が手を打って自分を笑いそしる声が、耳元へ聞えてくるような気がする。今まで売った剛愎が一挙にして泥にまみれる、思わず首をすくめて、

「鶴亀、鶴亀……えんぎでもない……いや、出る出る、必ず出る。万年青が枯れたのが厄落しになろう。これは、いっそ、いいきざしだぞ」

つまらぬことを空頼みにして、ぶつぶつと呟いていると、ふいに後から、こんなことを言うやつがある。

「えへン、何かそこでぼやいていますナ」

権八

振りかえって見ると、いつの間にはいりこんで来たのか、甥の阿古十郎が懐手をしてのっそりと突っ立っている。

阿古十郎は、庄兵衛老にとってたった一人のかけがえのない甥だが、世の中にこんな癪にさわるやつはない。

庄兵衛などは頭から馬鹿にしきっているふうで、てんで叔父の権威などは認めない。