Japanische Klassiker mit Furigana
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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme
いつまでも飽きずにじっとしていましたら、上から「おい、おい」とお呼びになります。「はい」と答えて、急いで上りましたら、
「葛餅が来たよ。お食べ。」
お婆さんの傍にある手桶の水で手を洗い、さて坐って見ますと、竹箸が剥げて気味がわるいので、紙で拭いて戴こうとして、「お兄さんは」と聞きますと、
「おれはいい。それもお食べ」と、お茶を飲んでいらっしゃいます。「まさか」と思わず笑いました。家を出てから初めて笑ったのです。葛餅はそれほどおいしくもありませんでした。
暫くしてから、「そろそろ帰ろうか」と仰しゃるので、「それをお土産にしたらどうでしょう。」
「そんなら、もう少し足して」と、買い足して、経木に包んでくれたのを、ハンケチに包んで持ちました。
下駄は穿きよくなりますし、お兄様は物を仰しゃるし、何だか足も軽くてよい気持でした。帰りは土手の左手遥かに火葬場の煙突が立っていますが、夜でなければ煙は見えません。お兄様の機嫌もよいようなので、
「さっきのあそこからは、向島の方は見えないようですよ。曇っているせいかしら。」
「見えないかも知れない、曲っているらしいから。今度は堀切の辺へ行って見ようね。