Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme

Aozora Bunko

私はただ呆れて見ていました。

往来の遥か彼方から、菊の葉の定紋の附いた提灯がちらと見えますと、私はすぐ家へ向って走ります。けれども車夫は足が早いのですから、とても駈抜けられないと思った時は、途中にある横道の河合の蔵の蔭に這入って遣り過します。狭い道ですから、人力車が通る時は、傍の垣根にぴったり附いていないでは危いくらいです。門灯の下で車夫は汗を拭き拭き笑っています。お兄様は、玄関の太い黒光りのする大黒柱に倚りかかって、肋骨の附いた軍服のまま、奥へも行かずに立っていられます。

「詰らないことをするものではない。危いではないか。暗くなってから通りへ一人で出てはいけないよ」と、むつかしい顔をしておっしゃるので、それからは家で待つことにしました。

その頃毎朝御出勤前に牛乳をお飲みになるのでしたが、時間までになかなか間に合いません。それにあまりお好でもないと見えて、追っかけて玄関へ持って来ても、よく手を附けずにお出かけです。その頃ですからコーヒーはないのでしょう。どうかしてお飲ませしようと、いろいろのものや葡萄酒なども入れたりしたらしいのですが、お見送りして引返すと、大黒柱の許に、お盆に乗せた薄紅色の牛乳があったことなどを思出します。