Japanische Klassiker mit Furigana
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すみだがわ
すみだ川・新橋夜話 他一篇
永井 荷風
Lesen Sie すみだ川・新橋夜話 他一篇 (すみだがわ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 44.378 Zeichen · 88 Bildschirme
蘿月は六十に近いこの年まで今日ほど困った事、辛い感情に迫められた事はないと思ったのである。妹お豊のたのみも無理ではない。同時に長吉が芝居道へ這入ろうという希望もまたわるいとは思われない。一寸の虫にも五分の魂で、人にはそれぞれの気質がある。よかれあしかれ、物事を無理に強いるのはよくないと思っているので、蘿月は両方から板ばさみになるばかりで、いずれにとも賛同する事ができないのだ。殊に自分が過去の経歴を回想すれば、蘿月は長吉の心の中は問わずとも底の底まで明かに推察される。若い頃の自分には親代々の薄暗い質屋の店先に坐って麗かな春の日を外に働きくらすのが、いかに辛くいかに情なかったであろう。陰気な燈火の下で大福帳へ出入の金高を書き入れるよりも、川添いの明い二階家で洒落本を読む方がいかに面白かったであろう。長吉は髯を生した堅苦しい勤め人などになるよりも、自分の好きな遊芸で世を渡りたいという。それも一生、これも一生である。しかし蘿月は今よんどころなく意見役の地位に立つ限り、そこまでに自己の感想を暴露してしまうわけには行かないので、その母親に対したと同じような、その場かぎりの気安めをいって置くより仕様がなかった。