Japanische Klassiker mit Furigana
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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
Lesen Sie たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集 (あじさい) von 佐藤 春夫 (さとうはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.277 Zeichen · 84 Bildschirme
そうして日頃はそんな気持もあまり起らないのに、姉や弟などに会いたいような切ない気がするのであった。やはり旅の疲労でもあろう。
「ちと陰気だね。」
と自分がひとりごとに呟いたのを石垣はすぐ耳に入れて、
「三階ならばお気に召すかも知れませんね。まあ御覧になってください。どこの部屋でも御気に召したところがあったらお取り代えします。はじめから皆そのつもりですから。」
自分は大した期待をも抱かなかったが、とにかく石垣の後につづいて三階へ上って見た。ここは今までの陰気なへんな心持を一掃するに足る明るさであった。わけても池田と浜野との二人が占領しているという表の八畳は高台の上にある三階だけに石垣の言葉のとおり北に向った一間の縁側がすばらしい見晴しであった。雲烟につつまれた地平線上に筑波かと思われる山が見えてその間の平地に起伏する丘や山林などが折からの夕日に浮き上って見えるのであった。夜になるとその地平のところどころに灯影も星のように見えるというのであった。その風景の上を吹き過ぎて渡って来る風もこれから盛夏に入ろうとする今貴重なものであった。この縁側に籐の寝椅子を置いて昼寝を貪ったらよかろうと大へん気に入ったけれど、池田も浜野も気に入っていると聞くと彼等の先取権を無視してここを占有しようという気もなくなった。