Japanische Klassiker mit Furigana
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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
Lesen Sie ちくしょう谷 (ちくしょうだに) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 69.788 Zeichen · 138 Bildschirme
「そんな夜なかによくわかったな」
「十七日の晩は月が出ていました」
「顔も見えたのか」
「木戸の人でした」とあやが云った、「黒い頭巾をかぶっていたので、顔の半分は隠れてましたが間違いありません、木戸の西沢半」
隼人がとびかかり、片手であやの頭を押え、片手で口をぴったり塞いだ。
「云うな」と隼人はあやの口を塞いだまま云った、「その名を云うな」
よほど驚いたのだろう、あやは躯を固くし、眼だけ横に動かして隼人を見た。
「二度とその名を口にしてはいけない」と隼人は繰り返した、「この場限りだ、いいか、誰にも云ってはいけないぞ」
頭を押えられたままで、あやは二度こっくりをし、隼人は手を放した。あやは口をぽかんとあけ、もの問いたげな眼で、じっと隼人の顔を見た。
「でもその人――」とあやがおそるおそる云った、「いちの腹の子の親ですけれど」
隼人は唇をひきむすんだ。
「いちは」と彼は重い物でもひきずるように訊いた、「子をおろさなかったのか」
「産むと云ってきかないんですって、それにもう帯もとっくに済んでますから」
あの悪七兵衛が肩をゆりあげるのはこんな気持のときなんだな、隼人は自分をなだめるようにそう思った。