Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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モスクワいんしょうき

モスクワ印象記

宮本 百合子

Lesen Sie モスクワ印象記 (モスクワいんしょうき) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.941 Zeichen · 42 Bildschirme

Aozora Bunko

そこから日本女の室まで七十二段、黒・赤・緑花模様の粗末な絨毯がうねくり登っている。昇降機はない。あってもうごかぬ昇降機がモスクワじゅうにたくさんある。日本女は一日に少くとも二百八十段上ったり下りたりした。そのたびに事務室の前をとおりすぎた。事務室の白い戸には三越の文具部にあるインク・スタンドの通りな碧硝子のとってがついていて、執務時間第八時より第十二時。第十四時より第二十二時と掛札が下っている。新モスクワの生活法を、レーニンの大写真が眺めている。

四階の手摺から下を見下すと、下足場の棕梠の拡った青葉のてっぺんと、その蔭に半分かくされたテーブル、うつむいて上靴をはいている女の背なかまで一つの平面に遠くみおろせた。棕梠があるから、人はここから身を投げても死ぬことはできない。

一人の日本女は、一日のうちになんどもそこから下をのぞいた。

夜になると、小さい花電燈が二つ点いた。廊下は静かだ。よく女中が手摺のそばに椅子を持ちだし、キャラコのきれに糸抜細工をやった。女中は痩せている。栗色の毛をかたくくるくる巻きにしている。海老茶色のジャケツをきて小さい耳飾をしている。