Japanische Klassiker mit Furigana
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モスクワいんしょうき
モスクワ印象記
宮本 百合子
Lesen Sie モスクワ印象記 (モスクワいんしょうき) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 20.941 Zeichen · 42 Bildschirme
私の胸のうちでは日本が、極めて心臓に近い場所でなんともいえず脈々と動きはじめる。黙って頬杖をついてテーブル掛の麻糸のほつれをぽつねんとよってはいられなくなる。私はYを呼ぶ。
彼女は、縞の、シベリア鉄道でアメリカ女がそれを見て蔑視したところの、厚ぼったい、男もの見たいなうわっぱりの中から、私を振向く。私は多くの賢いこと愚かなことをとりまぜ、しゃべり出す。やがてYも椅子を向けなおし、彼女の常戦法である「違うよ、そうじゃあないさ」をもって進出してくる。それから後、我々がどんなに、どんなことについてしゃべるか――ホテルの薄緑色の壁ばかりが知っている。
この時、ホテルの廊下の隅の女中のところでけたたましくベルが鳴った。戸棚の前で、女中は印度の詩人の室に撒く南京虫よけ薬を噴霧器に移した。女中はそれを下へおき、日本女の部屋の閉った扉を通って隣室へ行く。
三分後、白前掛をかけ、鼠色シャツを着た海坊主のような食堂給仕が、手すりにつかまり二段ずつ階段をとばして下から登ってきた。彼は若くない。肥った。息が切れる。新しくないサルフェトカで風を入れつつ六十二号、日本女の隣を開けた。