Japanische Klassiker mit Furigana
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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
Lesen Sie 一本の花 (いっぽんのはな) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 26.709 Zeichen · 55 Bildschirme
「いなさい、いなさい」
いかにも年長らしくきめつけた。
「そんなこって、どうするのさ」
それから間に合う汽車は九時十五分であった。幸子は手鞄に遽しく手廻りものをつめながらまた云った。
「第一、私の旅費さえかつかつなんだもの」
銀座で見舞物を買ったりしているうちに、朝子は、変な不安から段々自由な心持になった。
幸子のいないのもよい。自分の前後左右を通りすがる夥しい群集を眺めながら、朝子は思った。自分も苦しいなら苦しいまんま、この群集の一人となって生きればよいのだ。どんなに苦しくても、間違っても、人間の裡にあればこそだ。
ところどころの飾窓の夜の鏡に、ちらりと、自分の歩いている姿が映った。その自分を、内心で刺している苦しさや、一瞬同じ灯に照らされ鏡にうつる様々な顔、ネクタイの色などに、朝子は暖い感情を抱いた。
外国へ出発する名士でもあると見え、一等寝台の前で、熾にマグネシウムの音がした。幸子の乗った車室の前のプラットフォームには、朝子の他四五人の男女がいるだけであった。窓から半身外へのり出し、幸子が訊いた。
「大丈夫?」
朝子は、頬笑んで合点した。
「本当に?」