Japanische Klassiker mit Furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lesen Sie 二つの途 (ふたつのみち) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.102 Zeichen · 104 Bildschirme
過去の大きな影が自分の後ろにすっくと立っているのを、彼女はいつしか幻に見るようになった。……神経質な継母と凡てに無頓着な父との下に苦しんだ幼年時代、女学校を卒業すると東京の地に憬れて無断で中国の故郷の家を飛び出して来た頃のこと、東京に住む遠い親戚の者等の冷淡、国許の両親の立腹、大きな都会の渦巻き、文学に対する幻滅、生活の困難、種々の誘惑、そして辛うじて身を落付けたカフェー、啓介との恋愛、啓介の両親の憤り、啓介と二人で逃げ込んだ木下の家、初めの苦しい而も楽しい五ヶ月、それから啓介の病気、一進一退する長い病気、苛ら立ちと疲労、――それらの過去が一つの大きな影となって、脅かすように彼女の後ろに突っ立った。彼女はその影が自分の上にのしかかって来るのを時々感じた。淋しげに眼を閉じている病人の側についていて、何にも見も考えもせずふとぼんやりとした瞬間に……夜遅く木下が室を出て行って、病人が寝返りをした後で、もう寝ようかと一寸躊躇した瞬間に、……夜中にふと眼を覚して、心持ち冷えてきた病室の空気の中に、病人と看護婦との横の方に縮こまって寝ている自分を見出した瞬間に、そして彼女は不気味な悪寒に身を震わした。