Japanische Klassiker mit Furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lesen Sie 二つの途 (ふたつのみち) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.102 Zeichen · 104 Bildschirme
啓介はまた眼を閉じた。
生きてることを意識する光りが、彼の心に射していた。しみじみとした爽かな光りだった。云い知れぬ感激が胸からこみ上げてくるのを、彼はじっと押えた。「神よ!」と呼びかけてみたくなった。広い無際限の野に出ていた。「神よ!」と呼びかけたくなった。然し、眼瞼のうちに射し込んでくる電灯の明るみをしたって、半ば眼を開いた時、すーっと黒い影が掠め去った。彼はあたりを、心の中の隅々を、顧みた。まざまざとした記憶が、眼を開いてきた。取り返しのつかない事実が、その背後に聳えていた。彼の頭の中には打ち消すことの出来ない印象が刻み込まれていた。
木下と信子との関係がどの程度まで進んだものであるか、彼は少しも知らなかった。然し背景となるべき雰囲気と事情とを考えて、ただ心と心との結ぼれに過ぎないことを疑わなかった。然しその心をこそ、信子の心をこそ、あれほど苛ら立ちながら彼は求めていたのであった。今その心を失ってしまったことを思うと、彼は堪らない寂寥に襲われた。信子との深い愛の日のことが思い出された。その一つの記憶の糸をたぐると、凡てのことが展開されてきた。