Japanische Klassiker mit Furigana
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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
Lesen Sie 今戸心中 (いまどしんじゅう) von 広津 柳浪 (ひろつりゅうろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.688 Zeichen · 74 Bildschirme
五
「どうしたどころじゃアない。早くどうかしてくれ。どうも非常な力だ」
「しッかりおしよ。吉里さんしッかりおしよ。反ッちゃアいけないのに、あらそんなに反ッちゃア」
「平田はどうした。平田は、平田は」
「平田さんですか」
いつかお梅も此室に来て、驚いて手も出ないで、ぼんやり突ッ立ッていた。
「お梅どんそこにいたのかい。何をぼんやりしてるんだよ。平田さんを早く呼んでおいで。気が利かないじゃアないか。早くおし。大急ぎだよ。反ッちゃアいけないと言うのにねえ。しッかりおしよ。吉里さん。吉里さん」
お梅はにわかにあわて出し、唐紙へ衝き当り障子を倒し、素足で廊下を駈け出した。
五
平田は臥床の上に立ッて帯を締めかけている。その帯の端に吉里は膝を投げかけ、平田の羽織を顔へ当てて伏し沈んでいる。平田は上を仰き眼を合り、後眥からは涙が頬へ線を画き、下唇は噛まれ、上唇は戦えて、帯を引くだけの勇気もないのである。
二人の定紋を比翼につけた枕は意気地なく倒れている。燈心が焚え込んで、あるかなしかの行燈の火光は、「春如海」と書いた額に映ッて、字形を夢のようにしている。
帰期を報らせに来た新造のお梅は、次の間の長火鉢に手を翳し頬を焙り、上の間へ耳を聳てている。