Japanische Klassiker mit Furigana
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さっかのてちょう
作家の手帖
Lesen Sie 作家の手帖 (さっかのてちょう) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.838 Zeichen · 12 Bildschirme
一つしか持っていない時でも、その自分のマッチ箱に軸木が一ぱい入っているならば、軸木を少しおわけして上げる。そんな時には、相手から、すみませんと言われても、私はまごつかず、いいえ、と挨拶をかえす事も出来るのであるが、マッチの軸木一本お上げしたわけでもなく、ただ自分の吸いかけの煙草の火を相手の人の煙草に移すという、まことに何でもない事実に対して、叮嚀にお礼を言われると、私は会釈の仕方に窮して、しどろもどろになってしまうのである。私は、いまこの井の頭公園の林の中で、一青年から頗る慇懃に煙草の火を求められた。しかもその青年は、あきらかに産業戦士である。私が、つい先刻、酒の店で、もっとこの人たちに対して尊敬の念を抱くべきであると厳粛に考えた、その当の産業戦士の一人である。その人から、私は数秒後には、ありがとう、すみません、という叮嚀なお礼を言われるにきまっているのだ。恐縮とか痛みいるなどの言葉もまだるっこい。私には、とても堪えられない事だ。この青年の、ありがとうというお礼に対して、私はなんと挨拶したらいいのか。さまざまの挨拶の言葉が小さいセルロイドの風車のように眼にもとまらぬ速さで、くるくると頭の中で廻転した。