Japanische Klassiker mit Furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme
ある日、一匹の野狐が恐らく猟師にでも追われたのであろう、天狗の宮の拝殿へ一目散に駈け込んで来たが、幾日経っても出て行かなかった。そこを住家としたのである。次第に眷属が集まって来て、荘厳を極めた天狗の宮は、獣の糞や足跡で見る蔭もなく汚されてしまい、窩人達の家々には狸や狢が群をなして住み子を産んだり育てたりした。
こうして再び春となった。
野生えの梅が花を点じ小鳥が楽しそうに鳴くようになった。
この時、崖下の小屋の中で逞しい赤児の泣き声がした。山吹が子供を産み落としたのである。産まれた子供は男であった。で、猪太郎と名付けられた。産婦の山吹は小屋の中で藁に埋まって横になっていた。介抱する者は誰もいない。ただ一匹の小さい猿がキョトンとしたような顔をして寝かせてある赤児の枕もとに行儀よくチョコンと坐っているのがせめてもの山吹の心やりであった。
宇宙のあらゆる動物のうち人間と名付くる生物が一番順応性を持っている。
こんなに苦しい境遇にあっても山吹は不思議に肥立って行った。わずかに残っている米と味噌、大事にかけて貯えておいた去年の秋のいろいろの果実、食物と云えばこれだけであったが乳も出れば立って歩くことも出来た。