Japanische Klassiker mit Furigana
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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
Lesen Sie 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.586 Zeichen · 159 Bildschirme
今はもう楽屋中に誰一人スェータを編んでやろうと思うような好きな人はいない。しかし戸棚の奥から編物を取出して見ると、左右の腕はもう出来ている。胴も襟のまわりの面倒なところさえ大方は編み上げられているので、後はほんの一手間で仕上げてしまうことができるのだ。そう思うと、最初この仕事に手をつけさせたその人の事が一層しみじみと懐しく思返されて来る。
前の夜に何やら夢を見て、少し寝過した或日の朝、千代子は道々停りがちな腕時計を耳に押当てては見やりながら、あわてて楽屋へ駈込んだ時、大阪の興行先から浅草の楽屋宛に出した、思いがけない山室の手紙を受取った。
山室は来月東京へ帰って来て、他分もう一度千代子の居るB劇団へ加入するだろう。今からそれを楽しみにしているというような嬉しがらせの文句が書いてあった。
千代子は、山室は到底自分と結婚してくれるような純情な男ではないとあきらめながら、そうかと云って、性のわるい色魔にしてしまうほど、悪くも考え得なかった。千代子は誰一人好きな人もなしに、暗記した台詞を繰返すばかり、毎日毎晩を舞台で暮す今の寂しさと退屈さとに比べれば、実現される望はなくとも、せめて舞台の上だけでもいいから、もう一度、顔があつくなったり、呼吸がはずんだりするような目に会いたくて堪らない気がした。