Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじょう
地上
島田 清次郎
Lesen Sie 地上 (ちじょう) von 島田 清次郎 (しまだせいじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 175.250 Zeichen · 350 Bildschirme
冷え冷えとした川風がせせらぎの音に連れて忍び入る。冬子は寧ろ厳粛な、気は澄みわたり、あの鼓を打つときの入神さを感じていた。男の立派さやにじみ出る人格的の力に対抗するような、平常「虚偽」の底深く遠のいている、犯しがたい「真の自分の力」が自分をすっくと立たせはじめたらしかった。男は重みのある静けさのうちで、半眼を夢のように見開いた。
「もっとこちらへお寄り」
「は」
「冬子といったね」
ああ、ゆるやかにも力ある微笑よ。世界が根柢から揺り動かされる微笑よ。僅かに口辺に漂わす一、二辺の微笑みから覗かれる、底の知れぬ偉大な力の海が冬子に押し迫る。
(ああ、こうした男子もこの世にはいたのだった!)
すると、自分の身分、自分の運命、自分の真価値が、到底、いま目前に悠然と寝そべっているこの男に対してはあまりに見窄らしい、比べものにならないものだという羞恥がこみあげて来た。血が上気した。長い間、幾年の間、潜め隠していた冬子の熱情の泉が一斉に全身に溢れ出た。端厳な品位を、一生に一度の熱情の美しさが一斉に内から輝かしたのだ。彼女は俄かに能動的な力を得たように思えた。彼女のこの珍しい美は、厳粛なうちに、充ち溢れる若さに燃えた美しさは、彼女の生涯の奇蹟であった。