Japanische Klassiker mit Furigana
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ほうおんき
報恩記
Lesen Sie 報恩記 (ほうおんき) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.803 Zeichen · 30 Bildschirme
――こう云う姿を眺められるのは、それだけでも仕合せではありませんか? が、わたしはこの上にも、もっと仕合せになりたかったのです。
わたしは浄厳寺の裏へ来ると、一散に甚内へ追いつきました。ここはずっと町家のない土塀続きになっていますから、たとい昼でも人目を避けるには、一番御誂えの場所なのですが、甚内はわたしを見ても、格別驚いた気色は見せず、静かにそこへ足を止めました。しかも杖をついたなり、わたしの言葉を待つように、一言も口を利かないのです。わたしは実際恐る恐る、甚内の前に手をつきました。しかしその落着いた顔を見ると、思うように声さえ出て来ません。
「どうか失礼は御免下さい。わたしは北条屋弥三右衛門の倅弥三郎と申すものです。――」
わたしは顔を火照らせながら、やっとこう口を切りました。
「実は少し御願いがあって、あなたの跡を慕って来たのですが、……」
甚内はただ頷きました。それだけでも気の小さいわたしには、どのくらい難有い気がしたでしょう。わたしは勇気も出て来ましたから、やはり雪の中に手をついたなり、父の勘当を受けている事、今はあぶれものの仲間にはいっている事、今夜父の家へ盗みにはいった所が、計らず甚内にめぐり合った事、なおまた父と甚内との密談も一つ残らず聞いた事、――そんな事を手短に話しました。