Japanische Klassiker mit Furigana
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ほうおんき
報恩記
Lesen Sie 報恩記 (ほうおんき) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.803 Zeichen · 30 Bildschirme
「跡はただ何事も、天主の御意次第と思うたが好い。――では釜のたぎっているのを幸い、茶でも一つ立てて貰おうか?」
しかし老女は今更のように、こみ上げる涙を堪えるように、消え入りそうな返事をしました。
「はい。――それでもまだ悔やしいのは、――」
「さあ、それが愚痴と云うものじゃ。北条丸の沈んだのも、抛げ銀の皆倒れたのも、――」
「いえ、そんな事ではございません。せめては倅の弥三郎でも、いてくれればと思うのでございますが、……」
わたしはこの話を聞いている内に、もう一度微笑が浮んで来ました。が、今度は北条屋の不運に、愉快を感じたのではありません。「昔の恩を返す時が来た」――そう思う事が嬉しかったのです。わたしにも、御尋ね者の阿媽港甚内にも、立派に恩返しが出来る愉快さは、――いや、この愉快さを知るものは、わたしのほかにはありますまい。(皮肉に)世間の善人は可哀そうです。何一つ悪事を働かない代りに、どのくらい善行を施した時には、嬉しい心もちになるものか、――そんな事も碌には知らないのですから。
「何、ああ云う人でなしは、居らぬだけにまだしも仕合せなぐらいじゃ。……」