Japanische Klassiker mit Furigana
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ゆうもやのなか
夕靄の中
山本 周五郎
Lesen Sie 夕靄の中 (ゆうもやのなか) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.522 Zeichen · 19 Bildschirme
一
一
彼は立停って、跼み、草履の緒のぐあいを直す恰好で、すばやくそっちへ眼をはしらせた。
――間違いはない、慥かに跟けて来る。
その男はふところ手をして、左右の家並を眺めながら、悠くりとこちらへ歩いて来る。古びた木綿縞の着物に半纒で、裾を端折り、だぶだぶの長い股引に、草履をはいている。仕事を休んだ紙屑買い、といった、ごくありふれた風態である。どこにこれという特徴はないが、とぼけたような眼つきや、ひどく悠くりと、おちついた歩きぶりには、隠すことのできない一種のものがあった。それは老練な猟犬のもつ、誤りのない判断と、嗅ぎつけた獲物は決して遁さない、冷静で執拗なねばり、という感じを連想させるものであった。
――こんな筈はない、ふしぎだ。
彼は歩きだした。どうしたってそんな筈はない、江戸へ入ってから、いちども知った者には会わないし、彼が戻って来るということを、感づく者もない筈である。
町角を曲るときそっと、眼の隅で見た。間合は少しひらいたが、男はやはりつけて来る。こちらへはまるで眼を向けず、依然としておちついた、きみの悪いほどせかない歩きぶりで、悠くりと跟けて来る。