Japanische Klassiker mit Furigana
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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
Lesen Sie 夕顔の門 (ゆうがおのもん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.956 Zeichen · 29 Bildschirme
今――ばたばたっと夕闇を蹌めくように駈けて来た旅の浪人者があった。物に衝き当った蝙蝠のように、お市が、門を出て来た出会い頭に、そこの土塀にぶつかって、ばたっと仆れたかと思うと、
『た、助けて下さい。――お縋り申す! ……何、何処へな、お匿い願いたい』
と、彼女の裾をつかんで叫んだ。
赤土の肌の崩れている土塀には、夕顔の蔓がいちめんに這って、白い花が無数に宵の微風に息づいていた。彼女の側にも、浪人の体にもその弱々しい蔓や白い花が、千断れて落ちた。
『あっ……?』
と、お市が身を退くと、若い浪人は、固くつかんでいる裾の手を、猶更かたく、
『お、お、お慈悲に――暫くの間、御門内に』
と、這って来る。
見ると、その若い浪人の背筋は、割いた魚の背みたいに真っ赤な肉がはじけていた。仄暗いので、血とも見えない液体が、黒々とそこから満身にながれて、手をついた跡にも、血しおの手型がべったり残っている。
――きゃっと、彼女が思わず悲鳴を揚げて、門の内へ逃げこんだのは、その時だった。ウーム、ウームと、外には、気息奄々な傷負の呻きが、不気味に昂くなっていた。
良人には、出て行くと云って、踏み出した閾だし、門の外には、その不気味なものが仆れているので、お市は、そこに立ち恟んでいた。