Japanische Klassiker mit Furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lesen Sie 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.954 Zeichen · 24 Bildschirme
六
綾麿は恐ろしい絶望感に打ちひしがれて、残る一つの俵を開く気力も無くなってしまいました。最後の一つに無ければ――いやもう無いことは解り切ったようなものですが、あの観音像は、金より外に目的のない、古金屋の劫火に焼かれてしまったのでしょう。
もしそんな事になったら、――綾麿は四方が真っ暗になったように思いました。が、家の中の酒が一段落になったらしい騒を聴くと、ハッとした心持で、最後の俵を解き始めました。
「あッ、有った」
綾麿は夢中で天狗長兵衛の観音像を取上げると、十年目で逢った恋人のように、両手で犇と抱き締めました。湧き上る涙が、御仏の冷たい頬へハラハラと降りそそぎます。
「おい、庭を見ろ、変な奴が居るぜ」
誰やら気が付いた様子です。
「泥棒だッ」
「それッ」
酔ったのも酔わないのも、一団になって飛出した様子、綾麿は観音様を抱いたまま、足袋跣足になって、隅田川の方へ飛んで居りました。
「泥棒だッ、逃すなッ」
「畜生ッ、待ちやがれッ」
後ろからは殺到する追手の人数。
六
枕橋から吾妻橋まで、一気に飛ぶ気の綾麿、思わず足を縮ませました。古金屋を飛出した古金買が五六人、その半分は旧佐竹右京太夫の屋敷の、荒れた空地を通って、早くも綾麿の行手へ廻ったのです。