Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
アニキトクスクコイ
発信人のところには母の名前が書いてあり、受付の日附は前日の夜の九時になっていた。
わたしは電報をひろげたまま茫然として立っていた。最初頭の中を病みほほけた兄の顔が現われた。そして、わたしの方を向いてにやりと笑った。わたしは自分の心が烈しく打ちのめされたのを感じた。それは朝であって梅雨晴れの陽ざしが開け放した南向の窓から室中に流れこんでいたが、わたしは自分の身体が薄暗い影の中に立っているような気がした。すべての考えがわたしの心の中で位置を変えはじめた。どうしていいのかまるでわからなかった。一種名状しがたい――それは言わば何か神秘な妄想がわたしの頭を充しつつあるような――不安がわたしの上にのしかかってきた。しかし、未だそれだけで兄の死を信ずることが出来なかった。いや、ことによるとこの電報すらも、彼のたくらんだ一つの芝居に過ぎないのではないか。そういう気持が、きれぎれにわたしの心を支配した。その疑いは、翌日の午後、彼の死顔の前に坐るまで続いた。
兄は死んでいた。家の中は恐しいほどひっそりとしていた。兄の枕元には母が一人だけ坐っていたが、彼女はわたしの顔を見ると声をあげて泣きだした。