Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
もう押しかくすことのできない心の狼狽を多吉に見透かされないために、「まあ酒でも一ぱいひっかけて落ちついた方がいいよ、おれはすぐかえってくるからな」
と、わざと落ちついた声でにやりと笑ってみせてから急いで洋服に着替えると廊下の柱を両側からおさえて二、三度ぶっつかってみた上に、こんどは畳の上で四股を踏む真似をして左右の足の弾力をためし、さあ来いという身構えをつくりあげてから玄関へ出た。「大丈夫?」と不安そうによびかける妻の声をうしろに聞きながして格子戸をあけると、伍一は急に自分の肉体に思いがけない変質作用が起ったような緊張を覚えた。降りつもる雪のためにかたちを変えてしまった市街の輪廓や、遠い森や丘までが彼の眼にはまったくあたらしいもののように映ってきて、その朝、眼をさましたときのもやもやとした不安の性質が自然現象の変化をとおして彼の心の中にぬきさしのならぬかたちを現わすのであった。それは当然起るべきことが起ったというかんじではなく、もはや自分の力で推しはかることのできない運命に身をまかせているような気もちである。雪の中を歩いていると個人の力で防ぎきれない悲惨な情景がすでに遠くすぎ去った歴史のうすくぼやけた回想の中にうかびあがる一つ一つの場面のように彼の頭をかすめるのであった。