Japanische Klassiker mit Furigana
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やまのてのこ
山の手の子
水上 滝太郎
Lesen Sie 山の手の子 (やまのてのこ) von 水上 滝太郎 (みなかみたきたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.551 Zeichen · 31 Bildschirme
堪えようとしても浮ぶ涙を紛らすために庭へ出て崖端に立った。「お鶴の家はどこだろう」傾く日ざしがわずかに残る、一様に黒い長屋造りの場末の町とてどうしてそれが見分けられよう。悲哀に満ちた胸を抱いてほしいままに町へも出られない掟と誡めとに縛られるお屋敷の子は明日にもお鶴が売られて行く遠い下町に限りも知らず憧がれた。「子供には買えないという芸者になるお鶴と一日も早く大人になって遊びたい」
見る見る落日の薄明も名残りなく消えて行けば、
「蛙が鳴いたから帰えろ帰えろ」
と子供の声も黄昏れて水底のように初秋の夕霧が流れ渡る町々にチラチラと灯がともるとどこかで三味線の音が微かに聞え出した。ポツンポツンと絶え絶えに崖の上までも通う音色を私はどうしてもお鶴が弾くのだと思わないではいられなかった。そして何だかその絃に身も魂も誘われて行くようにいとせめて遣瀬ない思いが小さな胸に充分になった。「お鶴は行ってしまうのだ」「一人ぼっちになってしまうのだ」とうら悲しさに迫り来る夜の闇の中に泣き濡れて立っていた。
ふと私は木立を越した家の方で「新様新様」と呼ぶ女中の声に気がつくと始めて闇に取り巻かれうなだれて佇む自分を見出して夜の恐怖に襲われた。