Japanische Klassiker mit Furigana
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あずさがわのじょうりゅう
山岳紀行文集 日本アルプス
小島 烏水
Lesen Sie 山岳紀行文集 日本アルプス (あずさがわのじょうりゅう) von 小島 烏水 (こじまうすい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.795 Zeichen · 274 Bildschirme
不尽の高根
一 江戸と東京の富士
帰朝したのは、本年三月であった。横浜の波止場で、家族と友人の出迎えを受け、久しぶりで逢いたい顔に逢ったが、ただ一つ逢えない顔があった。それから暫らくのこと、私の勤務先は、日本橋の三越デパートメントの裏で、日本銀行と向いあったところだが、その建物の中で私たちが占めている室からは、太田道灌以来の名城を、松の緑の間に、仰ぎ見られるので、はじめて松樹国の日本に落ちついた気がした。ある日「富士が見えますよ」と、隣の机から呼びかけられて、西日さす銀覆輪の雲間から、この山を見た、それが今まで、雨や、どんよりした花曇りに妨げられて、逢いたくて逢えない顔であった。私は躍り上るように喜んだ、ほんとうに、久しく尋ねあぐんでいたのだ。雲隠れする最後の一角まで、追い詰めるように視線を投げた。
ここで、私が思い浮べたのは、北米ポートランド市の、シチイ・パークから遠望した、フッド火山の、においこぼるる白無垢小袖の、ろうたけた姿であった。十幾階の角形の建築物や、工場の煙突の上に、白蝶の翼をひろげたように、雪の粉を吹いて、遠くはこんもりと黒く茂った森、柔かい緑の絨氈を畝ねらせる水成岩の丘陵、幾筋かの厚襟をかき合せたカスケード高原の上に、裳裾を引くこと長く、神々しくそそり立つ姿であった。