Japanische Klassiker mit Furigana
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ぎゅうじん
山月記・李陵 他九篇
Lesen Sie 山月記・李陵 他九篇 (ぎゅうじん) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.608 Zeichen · 84 Bildschirme
起上って沖を見た時、青鯖色の水を切って走る朱の三角帆の鮮やかさが、私の目をハッキリと醒めさせた。その帆掛独木舟は、今ちょうど外海から堡礁の裂目にさしかかったところだった。陽射しの工合から見れば、時刻は午を少し廻ったところであろう。
煙草を一服つけ、また、珊瑚屑の上に腰を下す。静かだ。頭上の葉のそよぎと、ピチャリピチャリと舐めるような渚の水音の外は、時たま堡礁の外の濤の音が微かに響くばかり。
期限付の約束に追立てられることもなく、また、季節の継ぎ目というものも無しに、ただ長閑にダラダラと時が流れて行くこの島では、浦島太郎は決して単なるお話ではない。ただこの昔語の主人公がその女主人公に見出した魅力を、我々がこの島の肌黒く逞しい少女どもに見出しがたいだけのことだ。一体、時間という言葉がこの島の語彙の中にあるのだろうか?
一年前、北方の冷たい霧の中で一体自分は何を思い悩んでいたやら、と、ふと私は考えた。何か、それは遠い前の世の出来事ででもあるように思われる。肌に浸みる冬の感覚ももはや生々しく記憶の上に再現することが不可能だ。と同様に、かつて北方で己を責めさいなんだ数々の煩いも、単なる事柄の記憶にとどまってしまい、快い忘却の膜の彼方に朧ろな影を残しているに過ぎない。