Japanische Klassiker mit Furigana
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あるおんなのしょうがい
嵐・ある女の生涯
島崎 藤村
Lesen Sie 嵐・ある女の生涯 (あるおんなのしょうがい) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 47.846 Zeichen · 96 Bildschirme
部屋の内には、ある懇意なところから震災見舞にと贈られた屏風などを立て廻して、僅かにそこいらを取り繕ってある。長いことお三輪が大切にしていた黒柿の長手の火鉢も、父の形見として残っていた古い箪笥もない。お三輪はその火鉢を前に、その箪笥を背後にして、どうかしてもう一度以前のような落ちついた心持に帰って見たいと願っていた。
このお三輪が震災に逢った頃は最早六十の上を三つも四つも越していた。父は浦和から出て、東京京橋の目貫な町中に小竹の店を打ち建てた人で、お三輪はその家附きの娘、彼女の旦那は婿養子にあたっていた。この二人の間に生れた一人子息が今の新七だ。お三輪が小竹の隠居と言われる時分には、旦那は疾くにこの世にいない人で、店も守る一方であったが、それでも商法はかなり手広くやり、先代が始めた上海の商人との取引は新七の代までずっと続いていた。
お三輪は濃い都会の空気の中に、事もなく暮していた日のことをまだ忘れかねている。広い板敷の台所があって、店のものに食わせる昼飯の支度がしかけてある。番頭や小僧の茶碗、箸なぞも食卓の上に既に置き並べてある。そこは小竹とした暖簾のかかっていた店の奥だ。